鈴木幸一
私が小学校5年生だった42年前、家業の駄菓子屋で店番をしていた時、お店で駄菓子を食べて、お金を払わずに帰ってしまう癖のある2年生の女の子がいました。いつも「どうしようかな・・・」と悩んでおりました。ある日、女の子は店に入ってくるなり、やっぱり大好きなキナコ餅を食べ始めました。
私は、少し思案して、自分の声ではなく、いつもレジの横に置いてあるオレンジ色の小さな猫のぬいぐるみを使って、おどけて言ってみました。
猫:「それ、美味しい?」
女の子:「(ギョッとして目はまんまる。頷いて、ゆっくり2本目を取る)」
猫:「一本10円だよ。」
女の子:「(キナコ餅をみる)(猫を見る)10・・・円?」
猫:「(知らなかったんだと気づく。笑いながら)そうだよ。2本で20円」
女の子:「2本で20円」
猫:「お金。ちょーだい!」
そう言った途端、キナコ餅を持ったまま外に出てしまいました。私は、突然猫と会話してびっくりしたんだろうな〜と思いながら店番を続けていると、女の子のお母さんが血相を変えてお店に入ってきて、20円をカウンターに置き、息をはあはあ言わせながら、猫を見て言いました。
お母さん:「この猫、譲ってください!」
私:「これはだめです。うちの子なので。」
どうしても無理ですと断るのですが、欲しい理由はこうでした。
女の子には場面緘黙という症状があり、言葉は知っているのに家族の前でも、人前でも喋ることができない障害を持っていました。それが、突然、
女の子:「お母さん。これ、20円。2本で20円。」
と言ったというのです。
20円よりも、なぜ急に話せるのかを聞いたところ、猫がいて、猫と喋ったというのです。レジ横の猫と会話したら、症状が消えて、自然と喋ることができたのです。
その女の子は、それからもよくお店に来て、よく喋りました。よく通る声で、猫と一緒に閉店まで喋っていました。
後々、私が人形芝居というものに興味を持った理由はこのことがあったらからです。私は人形が持つ不思議な力について、学び続けることになったきっかけです。
さらに、今から30年前、長野県飯田市で行われた「人形劇カーニバル(現・いいだ人形劇フェスタ」での出来事。ある女性(S子さん)との出会いが決定的なきっかけになりました。
後日知ることになるのですが、S子さんは当時、不遇の事故で最愛の娘さんを亡くし、生きる気力を失っておられました。そしてS子さんは、自分のせいだと責め続けていたのです。
カーニバルに偶然立ち寄ったS子さんは、ほぼ一日中、私の人形劇と、それを見て大笑いしている子どもたちの姿を見届けてくれました。そして、劇が終わった後、私に声をかけてくれたのです。
S子さんには、人形達がまるで生きているように感じられたそうです。人形達の言葉が、メッセージが、自分自身を追いつめていた心に強く、優しく、あっという間にしみ込んできた、ということでした。セリフの中の、
「人間は思い込んで間違ってしまうもの。でも、自分が信じてやったこと、思い込んで頑張りすぎたり、間違って人に迷惑をかけてしまったとしても、謝ればいい。自分らしく生きればいい。」
という人形達のやりとりに、心の中で何かが弾けた。そう私に伝えてくれました。
このS子さんとの出会いは、私にとって、人形がもつ不思議なチカラを改めて感じさせてくれる掛け替えのない体験になりました。
そこから、認知症予防や心の医療に、パペットセラピーがあることを知り、私自身も研究を始めました。パペットセラピーは欧米では歴史もあり、今でも盛んにおこなわれています。
しかし私は、特別な治療までは必要としていない健康な大人たちや子どもたちにも、パペットは癒しをもたらし、さらに自身でも気づかなかった心の問題を解決する方向に、優しく導いてくれるものであることを、人形劇で学びました。
パペットセラピーのように、相手がいて、人形と会話して心をほどくものではなく、自分が人形役にもなって自分と対話すれば、もっと気軽に、いつでも、どこにいても、その効果は得られます。
パペットを使ってセルフカウンセリングすることで、人の心の奥底にある愛を引き出すことができることに気がつきました。
こんな気軽で簡単なカウンセリング手法を、多くの人に知ってもらいたい。そうして、心の問題が大きく表面化される前に、癒されながら自然と問題解決になっていけぱ、世界にもっと笑顔が増えてくれるはずです。
その一役になってくれるアイテムがあれば、それはもっと容易になります。このANiMiは、「パペットカウンセリング」の伝導役として誕生したのです。
皆様自身が、ご自分のためのパペットカウンセラーとなって、癒しの笑顔と一歩前に進む勇気がが生まれていくことを願っています。
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子どもたちは常に人形の人格に興味を持ち、自然と会話を楽しんでくれます。
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パペットを手づくりしてもらって、自己対話を体験してもらうワークショップを開催。
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パペットカウンセリングを体感し、興味をもっていただくセミナーも開催しています。
木村佳美
26歳で、ジュエリー作家として起業。その後、ものづくりをする人たちを、ビジネスの面でサポートしていく会社を友人たちと立ち上げる。(現、ジュエラ株式会社)創造する側の人たちが、より良いものを作り出せるための、開発やマーケティング、企画などを手がける。ANiMi開発チームは、かねてより社内役員でもある鈴木氏の構想にあったものを、なんとか世に誕生させようと、3年前から企画準備を進めてきたものである。
「パペットカウンセリングを、より容易に、身近に実用してもらえるためのアイテムとなるパペットを作りたい。」鈴木氏からの企画提案で、ANiMiは誕生しました。
パペットカウンセリングは、鈴木氏も提唱されるように、用いるアイテムは人形でなくても可能です。身の回りにある道具や小物、植物でも、何でも代用できます。ただそこには、「感情移入しやすいこと」という条件がつきます。
人が感情移入しやすいもの。それはやはり、生き物の姿形をしているほうがよいですし、簡単な動きを作れれば、より生き生きとしてくるでしょう。
それは、子どもだけが使うものではありません。
「大人にこそ、心を癒すアイテムとして使ってもらいたい。」ANiMiを開発する上で、我々が一番注力したポイントがそこです。
日本では、人形劇もパペットも、子どものためのエンターテイメントというイメージが根強いのが現状です。しかし、人形劇は古くから宗教的な儀式に用いられたり、人形浄瑠璃に代表されるように、伝統的文化としても存在しています。大人の感情にも、ストレートに影響を与えてくれるものなのです。
大人が、愛着をもって、いつもそばに置きたくなるようなパペットを。
多種多様な生活スタイルの人々に受け入れられるには、よりシンプルなデザインにする必要があります。しかし、シンプルなものほど商品化することが困難であることも理解しています。我々は、デザイナー、人形作家とも打ち合わせを重ね、現在のANiMiの姿に辿り着きました。
目の位置や大きさ、全体の色調、触り心地、大きさ、動きの作り方。より愛着をもってもらえるような手触り。そして何よりも、ANiMiたちに、より親近感と愛情を感じてもらえるための、彼らのバックストーリー。全てに意味をもって、開発を進めてまいりました。
私たちANiMi制作チームは、孤独のない、笑顔あふれる世界をつくる。そんな壮大な理想を掲げています。ANiMi人形は、そんな私たちが、真剣に考えて、生まれて、育てた妖精たちです。一人でも多くの人に、この思いが伝わっていくことを願って止みません。どうかお手に取っていただき、人形に触れてください。そして、喋りかけてください。きっとあなたに、答えてくれます。「いつも頑張ってくれて、ありがとう。」と。
心がほっこり、にっこりする作品になるよう素材・形・表情・色合わせを大切にしている。